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ピアニストの高橋 聡です。私は東京都中野区立桃園第二小学校に子どもを通わせる保護者です。'04年3月に次年度PTA会長に承認され、一年間PTA活動に打ち込むつもりでいました。しかし就任したての同年4月12日に、校長、教頭、学校評議員、そしてPTA役員達によって会長辞任に追い込まれました。原因は同年4月6日に行われた入学式のPTA会長挨拶の場で、東京都教育委員会による教員大量処分問題に触れ、同意出来ない旨を述べたためです。 入学式のつい一週間前の'04年3月30日、東京都教育委員会は、卒業式での君が代不斉唱等を理由として都立校教員176名を処分しました。うち9名は嘱託採用取り消しまたは不合格にし、事実上解雇しました。ある特定の歌を歌わないからなどという理由で、給与上の不利益を与え、また教壇に立つ権利を奪い、生活の基盤も崩すという酷いやり方に大変衝撃を受けました。176名もの大量処分は前代未聞で、とんでもない弾圧が行われていると感じました。 入学式で挨拶するよう頼まれていた私は、この処分問題を新入生の保護者の皆さんに提議したいと考えていました。都教委を批判することになるので学校側からある程度反発を受けることは予想し躊躇もしましたが、式場で実際、大きな日の丸が掲げられ君が代が斉唱される中、やはり今この場で言わなければと思い、祝辞を述べた後、処分問題に触れ「このような押し付けから本校が無縁である事、また、本校の子ども達が将来に渡っても、内心の自由を傷つけられるような事態にならない事を心から願います。」と述べました。 私の発言に立腹した校長は式直後、私を校長室に呼び「式にふさわしくない挨拶だった」「学校方針に反することを公の場で発言すべきでない」「今後あのような発言をしないように」などと注意しました。 翌日、PTA役員会において、役員からも私の挨拶に対して「思想的に偏ったPTAと思われた」「会長としての自覚なく私見を述べた」等の強い反発があり、また「今のうちにこの件はけじめをつけないと今後のPTA活動に支障が出る」との意見が出ました。学校側からの反発は予想していましたが、子を持つ親と言う同じ立場である役員達から強く非難されたことに私はショックを受けました。彼らとの間に溝を作ったことに責任を感じた私は、その日のうちに辞意を表明し、校長にも報告しました。しかしその翌々日、今度は役員のほうが私を役員会に招き、条件付きながら私と一緒に仕事をやっていってもよいと言われたため、私は辞意を撤回し校長に報告に行きました。 ところが校長は、もう影響・波紋が学外にまで広がっているため今さら会長を続けると言うことは無理、頭を冷やして考えたらどうか、等と承諾せず、 翌週の学校評議員会への出席を要請しました。 4月12日に学校評議員会が開かれました。この会は校長の主催で評議員は全員校長による指名です。町内会長、商店会長、青少年育成委員長等がメンバーです。この場で、まずある評議員が執拗に私に辞任を求め、私が反論し応じないと見るや、今度は竹山教頭が辞任を迫り、さらに教頭は「もし6名の役員全員があなたと一緒に仕事ができない、と言ったら辞めますか」と問いただし、私が「もし全員が辞めて欲しいと言うのであれば辞めざるを得ない」と答えると「今辞めると言いましたね。私は確かに聞きましたよ」と言い、PTA室に行き、何故かそこに待機していた6名のPTA役員全員を呼び入れ、一人一人に私と一緒にPTA役員の仕事を続けられるのか問うたところ、全員が私とは一緒に仕事ができないと答えました。その結果、教頭と評議員によりその場で辞任を表明させられました。校長はその場で辞表を書くよう、また押印するよう求め、私は半ば捨鉢になって書き、押印もしました。 「君が代」について発言することの恐ろしさ、排除しようという執念の強さ、深さを思い知らされた経験でした。 私のPTA会長辞任を問題とする方達による支援の輪が、しだいに広がって行きました。入学式に来賓として参列し偶然私の挨拶を聞き、共感を寄せ様々な助言をしてくれていた中野区議の武藤有子さん、地元で長年PTA活動に関わってきた岩本昌子さん、いわゆる「在日」の方との交流活動や労働問題に取り組んでいる松野哲二さん、私の連れ合いを中心として「これでいいの会?」を作り、問題の社会化、学校・区教委へ対する働きかけを始めました。地域で報告集会を開き、これを朝日新聞の記者が取材し、6月14日同紙夕刊に大きく私の辞任問題が取り上げられました。この記事のおかげで、全国から支援の声が寄せられるようになりました。 その後学校に対して面談を求めました。学校がこれを拒否したため、今度は区の教育長に面談を求めました。区教委はしぶしぶ指導室長と事務局次長の二名による一時間だけの面談に応じたものの、校長の報告のみ鵜飲みにし、私達の主張は全く認めず、私達が求めた学校への適切な指導について一切拒否しました。 その後も、学校に対して私に対する謝罪と、学校だよりへの私の辞任問題への意見掲載、辞表の返還等を求める要請をしましたが非礼な態度で拒否されました。また、区の人権擁護委員会に人権侵害問題として解決を求めました。しかし同会は相談者へのアドバイスはするが、解決のために何か働きかけるというものではなく何ら解決には至りませんでした。さらに、国の法務局人権擁護委員会にも解決を求めました。法務局人権擁護委員会は、評議員の発言について問題視し調査をしてくれたようですが、結局'05年10月7日「人権侵害の事実は不明確」だという通知が来ました。 学校・区教委が私たちの働きかけに一切誠意ある対応をしないため、'05年2月25日、法的手段の第一歩として東京弁護士会に人権救済申立てを行いました。 人権救済申立てとは、申請された人権侵害事案に対し、弁護士会が審査し人権侵害が認められた時には是正するよう勧告をする制度です。法的強制力を持つものではありませんが、法律の専門家であり人権思想の普及高揚を目指す団体が、調査・審議を重ね会長名で出すということには重い意味があります。 '05年4月17日の弁護士会での事情聴取の際に、多くの方達から寄せられた申立てへの賛同の言葉を届けました。その後も請求された追加の資料を届け、同会の判断を待つことになりました。 '06年2月28日、ついに東京弁護士会から、花岡光明・竹山弘志の両氏に対し「警告」が出されました。 (全文を下記に掲載) 今回は中野区教委にまでは及ばなかったものの、「勧告」よりも重い「警告」という形で働きかけがなされたのです。「警告」という用語について東京弁護士会に問い合わせたところ、同会が人権救済申立について発する文書には「要望」「勧告」「警告」の三種類があり「警告」が最も強い性格のもので、それ以上はない、ということでした。同会としては最大限、私の申し立てに呼応してくれたと言っていいと思います。 もちろん同会が、私と相手方双方に対し事情聴取をして、公正かつ客観的に判断したものであることは言うまでもありません。同会にも様々な考え方をする弁護士があり、必ずしも常に弱いものの味方をするという訳ではありません。 「警告」が出たことは私にとって非常に力強い励ましでした。 校長・教頭らの行為が、私に対する人権侵害であることが法律の専門家によって客観的に判断されたこと、またその人権侵害は、私の自己決定権、そして意見表明権に対してのもので、憲法13条、また21条1項に觝触するものだと説明されていること、またPTAの独立性は尊重せられるべきだと明言されていること、そして何より、二度とこのような人権侵害を行わないよう警告という形で働きかけてくれたことに対して、とても言葉では尽くせない喜びを感じています。 同時に、このような理論的後ろ楯を得たからには、これを最大限に使って校長らを追及して行かなくてはならないという責任、そしてこれをできるだけ広範に周知させる必要性を感じました。この「警告」は都教委の強制に対してのものでもあると思っています。私のPTA会長解任は都教委の強制に異議を唱えたことが原因であり、その異議を排除しようとした圧力に対して出された警告であるからです。これを周知させることによって「君が代」押し付けを主としたあらゆる強制を少しでも是正させる力にしたいと願っています。 「警告」の通知を受けた翌日から各マスコミに連絡、3月14日に記者会見と報告集会を開き既に「東京」「朝日」「赤旗」各紙、「週刊新社会」「週刊金曜日」「地域と労働運動」など、様々なマスコミにより報道していただいています。 また、花岡・竹山両氏に対して、「警告」を重く受けとめ、よく反省の上私に謝罪するよう求めました。また、「これでいいの会?」で中野区中の公立小中学校に対しても警告文を送り、このような人権侵害が起きないよう求めました。さらに当時の学校評議員、PTA役員に対しても警告文を送ってこの問題について再度考え直すよう求めました。さらに都教委に対しても警告文を送り、再び「君が代」不斉唱等の理由で教員処分を繰り返さないよう、また今までの処分を撤回するよう求めました。 花岡・竹山両氏をはじめ今のところどこからも反応はありません。また許し難いことですが都教委は3月31日付けで新たに30余名の教員の処分を発令しました。警告文を送付したことで目に見える成果が上がっているわけではありません。なお働きかけが必要です。 これからも区教委、また区長、都立校その他、強制の行われていると思われる現場に警告文を送り、働きかけをしていこうと思っています。 この「警告」が出されたことが多くの方々に伝わるよう皆様にぜひご協力をお願いいたします。 これからも納得出来ないことについてはうやむやにして見過ごすことのないようにしたいと思います。それが主権者である一市民としての責任ではないかと考えています。 ジャズピアニスト 高橋 聡 mail: satior@h9.dion.ne.jp http://satior.ld.infoseek.co.jp/ 花岡光明・竹山弘志両氏に対する東京弁護士会による警告文花岡光明殿 東弁人第168号 竹山弘志殿 2006(平成18)年2月28日 東京弁護士会 会長 柳瀬康治 人権救済申立事件について(警告) 当会は、申立人高橋聡氏からの人権救済申立事件について、当会人権擁護委員会の調査の結果、貴殿らに対し、下記の通り警告します。 記 一. 警告の趣旨 貴殿らが、申立人による2004(平成16)年4月6日の東京都中野区立桃園第二小学校の入学式におけるPTA会長挨拶に端を発して申立人に対してなした行為は、申立人の自己決定権を侵害し、また、意見表明の自由を侵害するものですので、今後二度とこのような人権侵害行為に及ぶことのないよう警告いたします。 二. 警告の理由 1. 当会の調査によりますと、貴殿らは、2004(平成16)年4月6日当時、東京都中野区立桃園第二小学校(以下「本件学校」といいます。)の校長、教頭の職にあったところ、同日に開催された同校の入学式におけるPTA会長挨拶として申立人が、都内の学校の卒業式における君が代斉唱時の不起立を理由とした東京都教育委員会による教職員の大量処分問題に触れ、「このような押しつけから本校が無縁であること、また、本校の子供たちが将来に亘っても内心の自由を傷つけられるような事態にならないことを心から願います」等と述べたことを問題視し、PTA会長職を続ける意志を有していた申立人を、同月12日に学校評議員会に呼び出し、竹山殿においては「他の役員が一緒にやっていけないと言ったら辞めますか」等と発言して学校評議員らと共に申立人に対してPTA会長職を辞するよう迫り、さらに花岡殿においては同会議の場で申立人に辞表を作成するよう迫って辞表を書かせたことが認められます。 2. PTAは、家庭、学校及び社会における児童青少年の福祉を増進すること等を目的とした団体であり、その目的に照らした性質上、活動の独立性が尊重されなければなりません。また学校評議員会は、学校評議員による情報や意見の交換の場であって、もとよりPTA人事に関するいかなる権限も有しておりません。 しかるに貴殿らは、自主独立であるべき本件学校のPTA人事に関し、学校評議員会の場で学校評議員らと共に申立人に対して辞任を迫るという形で介入し、最終的に申立人に対し会長職の辞表までを書かせるに至ったものであります。 当時本件学校の校長と教頭の立場にあった貴殿らによるかかる行為は、自主独立であるべきPTA 会長職を辞するか否かに関する申立人の意志決定の自由を奪うものであり、憲法13条の保障する申立人の自己決定権を侵害するものです。 しかも貴殿らが上記のような行為に出た端緒は、申立人が東京都教育委員会による教職員への処分を背景にした日の丸掲揚及び君が代斉唱の実施につき入学式で批判的意見を述べたことにあるといえます。 とすると、貴殿らの上記の所為は、多様な意見のあり得る日の丸掲揚・君が代斉唱問題についての申立人の意見表明に対する事実上の事後的な圧力であり、憲法21条1項の保障する申立人の意見表明の自由をも侵害するものといわざるを得ません。 三. 以上の次第であり、貴殿らにおかれましては、頭書の通り、二度と本件の如き権利侵害に及ぶことのないよう警告いたします。 以上 (高橋注:花岡・竹山両氏が桃園第二小の校長、教頭の職にあったのは2004年当時であり、2006年4/11現在は花岡氏は中野区立野方小校長、竹山氏は大島町立波浮小学校長に在職です。) |